右目に眼帯、緑がかった髪に角と尻尾が生えている。彼女も悪魔だろうか。
どこか儚げな雰囲気をまとっている。
「え?嘘?!ミコ…ミコちゃんなの?」
エリは椅子から立ち上がり、ゆっくりと近づいていく。
ミコと呼ばれた彼女は悲しげな目で視線を逸らし、頷いた。
「迎えに来るのが遅くなって…ごめんね」
そう言い終わる間もなく、エリがミコの元へ走って駆けより強く抱きしめた。
「ミコちゃん…無事でよかった…ずっと会いたかった…」
泣きじゃくるエリに、ミコも目に涙を浮かべながら小さな手でそっと背中に手を回す。
その光景に、俺も溢れる涙を止めることが出来なかった。
再会を果たしエリの気持ちが落ち着いた頃、二人が話し始めた。
「エリちゃん…この人間は?」
「この人は使田さん。大丈夫、この人は信用できる気がする」
「どうも」俺は軽く会釈をする。
「それなら信じるけど、少しでもエリちゃんを変な目で見たら使い魔で石にしてやるからな」
警戒心の強い彼女が心を開くには相当時間がかかりそうだ。
見ず知らずの人間だから当然だけど。むしろ何故信用されているのだろうか。
「使田さんは私の歌を褒めてくれた。歌を愛でることができる人に悪い人はいないの」
こうして二人は少しずつ、自分達のことを話し始めた。
が、それはにわかには信じ難い話だった。
この地球を支配しようと企む“魔王ななし”
それに対抗するべく集まった精鋭がこのハニーストラップなのだと。
パトラは魔界の女王の血を引く悪魔の子だが、地球が大好きで人間の味方だ。
この戦いに勝つためにどうしても彼女の力が必要になる。
だが、悲劇によりパトラは深く心を閉ざしてしまった。
これを救えるのはもう、エリの大切な“赤い紙切れ”しかない。
微かな希望を胸に、危険を冒してミコはエリを迎えに来たのだ。
「ボクはパトラに助けてもらった。だから今度はボクがパトラを救うんだ」
パトラは故郷である魔界にいる。だが、そこに行くには大きな危険が伴う。
ななしの軍勢に追われているし、魔界は地球と比べ物にならないほど瘴気が濃い。
人間なら数秒も持たずに死んでしまう。
「ボクの使い魔ならボンベもいらずに魔界へ行ける。どうする人間?お前も一緒に来るか?」